東京地方裁判所 昭和44年(ワ)10552号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(判示二、) ところで、原告は、被告が亡朴石崇に完治に至るまで一日当り金二〇〇〇円の割合で補償を約したから、同人死亡の九月二八日までの補償分の支払いを主張している。たしかに、被告が一日当り金二〇〇〇円の補償を約したことは当事者間に争いがない。しかし、<証拠>によれば、被告は亡石崇の本件入院直後同人の二男朴基根らと語つて、石崇の入院期間中の休業補償として一日当り二〇〇〇円宛支払うと約したこと、二〇〇〇円と定められたのは、基根らが、石崇が日雇労務者として一日当り一、〇〇〇円以下の給与しか受けていないのに、これを秘し、同人は造園業者のところで働き一日当り二〇〇〇円以上の賃金を得ている旨虚偽の事実を述べ、被告がこれを正当と信じたからであること、基根らとしては、亡石崇の入院中は、働いている同人の妻権憲伊ないし娘朴紀子のいずれかが休んで看護に当ることになるので、石崇分のほか憲伊らの給与相当分の補償をも含めて請求したこと、(しかし、この期間中、憲伊ないし紀子が付添看護をしたことを認めることのできる証拠はない。)しかしこのことは被告には告知しなかつたこと、亡石崇が退院するに際しても、石崇らは退院後の安静加療により働けない期間について一日当り二、〇〇〇円の補償を求め、被告においてもこれを了解したこと、そして、被告から石崇に対し、休業補償として昭和四四年一月一九日金三万円、同年二月一一日金六万円、同年三月五日金三万円、同月一五日金三万円、同年四月五日金三万円、同月二四日金二万円の各支払いがなされていることが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。これによると金二、〇〇〇円の支払いが休業補償の趣旨であつたことは明らかである。しかしながら、事故により訴外亡石崇が蒙つた損害は、傷害それ自体であつて、休業損害、慰藉料、治療費等の費用は、その金銭評価算定のための資料となるものにすぎないと解すべきであつて、したがつてまた被告のなす弁済も、それがいかなる費目名義に基づきなされたものであれ、特別の事情のない限り、それは全損害に対する支払いであるとみなされるべきものである。前記認定の事情によると本件の場合、被告が休業補償費として支払つたものが、他の費用に充当すべからざる特別の事情があるとは認められないから、被告の支払つた金二〇万円の休業補償金は、被告の詐欺による取消等の主張について判断するまでもなく、亡石崇の蒙つた全損害等に充当されるべきである。<中略>
(判示一) <証拠>によれば、訴外朴石崇は昭和四四年九月二八日死亡したこと、同人の国籍は韓国にあり、同人は生前戸主であつたこと、同人の長男が原告朴基東であることが認められ、これに反する証拠はない。これによると、韓国民法により、亡石崇の有していた権利は、原告朴基東に相続承継されたものといわねばならない。本件損害賠償請求権も同様である。ただ、この中で、亡石崇の慰藉料請求権の相続については問題がないわけではないが、本件記録によると、亡石崇が原告代理人に訴訟提起の委任をしたのが昭和四四年八月一五日であり、その後同年九月二九日同人死亡の翌日死亡を知らなかつた原告代理人の名により本訴が提起されていることが明らかであるから、少なくとも原告代理人に訴訟委任後は、亡石崇の慰藉料請求権は一身専属的なものから、主観的色彩を減退し、通常の金銭債権と同視し得べきものに転化してしまつたとみるべきであるから、当然相続できる。 (田中康久)